1 はじめに
信里小学校は、長野市の南に位置する茶臼山の山腹に位置し、児童数31名の山間小規模校である。東には眼下に長野市街地が広がり、北にはアルプスの峰々が一望できる自然豊かな環境にある。農業が盛んで、りんごや野菜の栽培の他に、400を超える溜池を水源に稲作も広く行われている。茶臼山はかつて大規模な地滑りが発生したことでも知られている。現在でも地滑り防止のための維持管理が続けられ、地滑りの跡地は恐竜公園や茶臼山動物園として利活用されている。地域の災害特性としては、土砂災害が挙げられるが、耕作放棄地の増加に伴って使われなくなった溜池も潜在的な危険がある。大雨の時には側溝から水が溢れ出たり、強風や落雷の時に身を隠す場所が少なかったり、傾斜地特有の気象災害への備えも必要である。
2 防災教育の取り組み
本校は、本支援事業の指定を受け10年目となる。学校防災アドバイザーの先生方にご指導をいただき、「自ら考え行動できる子どもの育成と地域と連携した防災活動」をめざして、信里地域委員会(住民自治協組織)と連携し、「信里地区総合防災教室」を実践してきた。そして、今年度は下記のような実践を行った。
3 信里地区総合防災教室の実践
(1)活動の流れ・概要
信里地区総合防災教室 9月9日(土)授業参観日として開催
1校時 校内の安全設備を見つけよう(縦割り班でのスタンプラリー)
2校時 避難訓練・消火訓練・煙体験
3校時 全校で防災学習「防災マップ作りに向けて~地域の危険箇所・安全施設~」
4校時 土砂災害学習
参加者 全校児童31名、保護者27名、地区役員16名(各地区長、地域委員会事務局)
学校評議員3名 計77名
(2)防災教室の様子
ア 校内の安全設備を見つけよう(縦割り班でのスタンプラリー)
校内の安全設備(消火器、火災検知器など)を縦割り班で探しながら校内を歩き、校内地図に見つけた設備ごと色分けしたシールをはっていった。いくつ見つけられるか、何種類見つけられるか、どうしてその場所にあるのかなどを考えることで、校内の防災に対する意識を高めてほしいと願って行った。普段は何気なく過ごしている場所に多くの設備があることに気づく児童、保護者の姿があった。
<児童の感想>
・感知器が体育館のステージにもあって驚いた。
・全種類の安全設備が見つけられた。
・感知器がどの教室にもあり、いつどこで火事があ
ってもわかるようになっていた。
・転倒防止が本棚や棚にあった。防火扉がどの階に
も一つずつあった。
・いつもはあまり気づかないところにたくさんの安
全装置があってびっくりした。もし地震などが起
こったときに、このような設備があると被害など
も減ると思った。意外なところにあったので、
何に使うかも考えてみたい。
イ 避難訓練・消火訓練・煙体験
支援者 篠ノ井消防署4名
参観日に教室に集まった保護者(28名)や地域住民(10名)計38名が、児童と共に緊急地震速報受信システムの音声を聞き、避難訓練を体験した。また、4~6年生の児童4名と職員2名が、消火器(水)による消火訓練を行った。さらに、特別教室に煙を発生させ、体を低くしながら出口まで歩行する避難体験をした。煙がどれだけ危険で怖いかを実感し、避難の仕方を体験する機会となった。
<児童の感想>
・避難訓練は落ち着いてできたので、本当に火事などが起きたときも落ち着いてできるといいです。
・「おはしも」は知っていたけど、「おはしもち」があるのは知らなかった。
・消火器をいざ自分がやるとしたら少し不安だったけど、訓練で見たら安心した。
・煙体験は視界がまっ白でびっくりした。どこに何があるのかわからずこわかった。
・煙で全然見えなかったから、低く構えるのは大事だなと思った。
ウ 土砂災害学習
支援者 土尻川砂防事務所、砂防ボランティア 4名
児童、保護者、地域住民が一斉に土砂災害について動画を見たり講話を聴いたりした。また、土石流災害を防ぐ堰堤の模型実験と雨の降り方についての説明を2グループに分かれ交代して行った。土砂災害について詳しく知らない保護者も多く、この機会に土砂災害の種類や怖さ、堰堤や砂防ダムの重要性を知ることができ、有意義だった。雨の降り方や雨量が土砂災害に大きく影響することから、簡易雨量計のキットの作成方法、活用法を教えていただいた。家庭に配布し、作成、活用をお願いした。
<保護者の感想>
・土砂の勢いに驚きました。土砂災害の恐ろしさを改めて感じた。
・ビー玉の実験を通して、砂防ダムの役割やその重要性を知ることができた。
・ハザードマップをもう一度確認したい。日頃の備えと早めの避難を心掛けたい。
・最近ゲリラ豪雨が多いので怖いが、砂防によって被害が軽減されることが分かった。
・地震や大雨の時はニュースや警報を見て、外の音に敏感になる事が大切だと分かった。
エ 信里防災マップづくりに向けて ~第一避難所までの危険箇所などを知る~
支援者 各地区の区長15名、保護者27名 計42名
地区児童会ごと4つの教室に分かれ、児童が保護者と歩いて撮ってきた自宅から第一避難場所までの危険箇所等の写真を見せながら、その場所の説明(危険・安全な理由等)をする。その発表を聞いて、気づいたことや聞きたいことなどを出し合う。区長や保護者も話し合いに参加し、過去の被害の様子等、児童が知らない情報を加えていく。まとめでは、各教室をZoomでつなぎ、学習して分かったことや感想などを発表し共有した後、防災アドバイザーの先生のお話を聞いた。
<児童の感想>
・もう一度家のまわりの危険なところを確認したいと思った。
・いろんな危ない場所があるから、登校のときや家の近くを歩くときは気をつけたい。
・もし災害があったら、撮ってきたところに気をつけて公民館まで行きたい。
・古い家が危険、池がよく見えないところが危険、ため池があふれると危険だと思った。
・道が急に狭くなったりして、車がきて危ないところもあったし、木が倒れて危ない
ところがあった。気をつけたい。
・自分が見た以外にも危険な場所を知ることができた。
・古い空き家がたくさんあって、地震がきたらたおれて危険。
・普通に通れている道でも、いざというときは危険だと思った。
・普段あまり気にせずに通っている所とか、木が崩れそうな所とかがあった。公民館が少し古いけど、安全な避難場所を有旅の人と先生たちとしっかり確認できました。
(3)防災アドバイザー 廣内先生の指導より
・避難訓練では周りに地震や火事など様々な危険がある。警報の種類や仕組みを知った上でもしもの時どう行動するのか、行動に起こす体験する、やってみて考えることが必要。
・自分の家から避難所までどうやって行くか考えることはすごく重要。冠水、土砂崩れ、木が倒れたら、蜂や蛇は?など、普段はないが、もし何かあったら…と考え自分の命を守る学習ができた。自分の力でできないときは…避難の途中だったら…などいろいろなパターンで考えていく。
・まとめていく途中で、信里にどんな危険なところがあるか、みんなで確認し、教えあう。さらに避難した次はどうする?さらに何ができるか?と考えていきたい。
・大人が見て何でもなくても、子どもの視点で教えてもらうことがある。どうすれば不安がなくせるか、お子さんと話して、また大人の視点に戻っていくとよい。
・地域のこと、信里全体のことを考えていきたい。
4 防災アドバイザーとの関わり
(1)7月21日(火)10:00~12:00 信州大学教育学部 廣内大助先生(本間喜子先生Zoom)
・地域と共催の信里地域総合防災教室の事前打ち合わせを区長会長1名、
土尻川砂防事務所2名、学校2名 計7名(アドバイザー含)とともに行う。
(2)9月9日(土)8:30~12:30 信州大学教育学部 廣内大助先生
・地域と共催の信里地域総合防災教室の参観と指導
(3)12月21日(木)8:55~10:30 信州大学教育学部 廣内大助先生
特定非営利活動法人ドゥチュウブ 落合鋭充氏
「信里地区防災マップづくり」授業の指導
・各自宅と第一避難場所までの経路を確認し、地図に書き込む。防災マップへの反映
・各自撮ってきた危険箇所の中から、各地区で地図に載せる写真(3枚以下)を選び、コメントを修正する
・記録したものを地図に反映させるための技術的な指導
5 まとめ
(1)地域との共催で防災意識を高めさらに地域へ発信
防災マップ作りに向けて、子どもたちは保護者とともに自宅から第一避難場所までの道を歩き、危険箇所や安全な場所などをタブレットで撮影してきた。災害の時に避難する経路を歩くことで、ここでもし災害が起きたら…と想像し、危険な場所や避難できそうな場所などを保護者とともに確認することができた。またその内容を地区ごと発表し共有することで、地域を知り、防災に対する意識が高まった。区長や保護者も参加し、助言や質問をするなど共に学び合う機会となった。さらに、その学習を生かした防災地図の完成を目指し、廣内先生と落合先生のご指導のもと授業を行った。児童は避難経路を確認し、地図に入れる危険箇所(写真)を厳選し、注意喚起する言葉を考えるなど、自分の住む地域の安全について真剣に考え話し合った。子どもの目線で作成したこの信里の防災マップを地域に向けて配布し、さらに地域の防災、安全を発信していきたいと考えている。
(2)災害に備えるために
人口の減少等から地域での防災訓練が難しい現状であることから、地域住民も参加した避難訓練、煙体験は、重要な役割を担っていると感じた。だからこそ、様々なパターンを想定した訓練を取り入れていく必要がある。学校の安全設備のスタンプラリーは、もしもの時に備え自分の身を守ることにつながる活動となった。
土砂災害の講演や実験では、初めて知る児童、改めて実感する保護者や地域の方の姿があった。自分の住んでいる地域に潜む危険を目の当たりにしたことで、他人ごとではなく自分のこととして考え、家族で災害への備えを考えるきっかけにもなった。
今後も、学校のこうした活動が信里地域の防災や安全を担うことにつながっていくと思われる。自分たちはもとより、保育園児やお年寄りなどみんなと助け合いながら災害から身を守るための活動を、地域とともに充実させていきたいと考えている。
(文責 教頭 鷹野絵理)
<「学校だより(令和5年8月30日)」より>
夏休み中には、家から避難所までの危険箇所や安全施設等を見つけながら一緒に歩いていただき、ありがとうございました。そのとき調査の様子(笹鍋)をテレビ局に取材してもらいました。はじめは緊張気味でしたが、「ここは大雨になって水があふれたらあぶないね。」「ここの道、こっちが崖になっていてすべりそう。」等とどんどん危険箇所を見つけていました。この様子は9月6日(水)20:00~「池上彰と考える~どう備える巨大地震」の中で放送される予定です。お時間がありましたら、ご覧ください。
また、9月9日(土)の防災教室では、その写真を使って地区ごと保護者や地域のみなさんと話し合います。昨年も危険箇所の撮影をお願いしましたが、改めて見ると昨年とは違った危険に気づいたり、地区で見合うことで新たな発見があったりすると思います。詳細につきましては、本日開催通知を配布しましたのでご覧ください。
<防災マップづくりのための授業(12月21日)の様子>
パソコン上で家からの避難経路を入力する方法を落合先生から教えていただいた。
信里の防災マップを作ろう
1.これまでの学習と今日の学習の流れ(全体)
2..第一避難場所を確認しよう。(地区ごと)
3.危険箇所や安全な場所写真を確認しよう。(地区ごと)
4.地図にのせる写真を選ぼう。(地区ごと)
5.写真のコメントを考えよう。(地区ごと)
・付箋や地図に書きこむ、タブレットに入力
6.自分の地区の特徴を考えよう。
7.グループごと発表
<職員に向けた防災マップ作成のご指導(2月26日)>
ZoomにてPowerPointに地図を挿入し、写真等を貼り付ける方法を教えていただいた。
<信里の防災マップを信里全戸に配布>
・3月の区長会で区長さんに配布をお願いした。防災マップと共に配布の趣旨やお願いの文書等をつけて配布していただいた。
(地図は下記参照)