白馬村立白馬中学校

白馬村立白馬中学校

1.はじめに

2014年11月22日午後10時過ぎ、長野県北部で強い地震が発生した。本校が所在する白馬村では、マグニチュード6.7の揺れが観測され、多くの建物に被害が出た。しかし、住民らの強いつながりにより、下敷きになった人を協力して助け出すなどの安否確認や救助活動が行われ、犠牲者は「ゼロ」。のちに「白馬の奇跡」と呼ばれた。それから10年。現在、白馬中学校に通う生徒たちは、当時のことをほとんど知らない。しかし、今後もいつ起こるか分からない様々な災害から命を守るために、自分たちの暮らす村で起こった災害から学び、災害時にはそれぞれのできることを果たし、地域をリードできるような生徒たちになってほしいと考えた。そこで、「自助」、「共助」の考え方に焦点を当てた2つのねらいを据え、2学年の生徒を中心に防災学習に取り組んだ。

◇災害時に何ができるのか、防災を自分事として考える(自助)

◇白馬という地域を知り、地域とつながり、地域のためにできることを考える(共助)

2.実践内容

令和6年度の実践内容は以下の通りである。

3.生徒の様子

〈避難所生活体験〉

生徒は「私の非常用持ち出し袋を考えよう」の活動で考えた非常用持ち出し袋を持参し、水道が使えない避難所を想定した本校の体育館で一泊の宿泊体験を行った。避難所生活のルールや空間のレイアウトなどは、避難所運営ゲーム(HUG)を思い出しながら、生徒たちが自ら相談して決めた。夕食は、ポリ袋に材料を入れて湯煎する「袋調理」の方法を用い、カレーとご飯、コーンフレークバーを調理した。食べるための器がなかったため、ブース別ワークショップでの学びを生かして、新聞紙で皿を作り盛り付けた。就寝に向けて、村内の避難所に備蓄されている簡易テントと簡易ベッドを組み立て、個人のスペースを確保した。就寝の直前には突然の停電を実施し、体育館を急に真っ暗にしたところ、生徒たちはすぐに懐中電灯を持ち寄り、地区ごとに声をかけ合って安否確認を行っていた。その後、突然の事態に備え、それぞれのテントにメンバーの名前を掲示してから就寝しようという話し合いもあった。

停電

袋調理

簡易テント

参加した生徒の多くが、「時間がかかったが、話し合いや炊き出しで協力することができて良かった」と振り返っていた。その一方で、知らない人も多くいる実際の避難所でも団結できるかという不安や、他人の足音やいびきが意外に響くこと、断水でトイレやシャワーが普段通りにはできない不便さなど、困りごとに直面した姿もうかがえた。それらの経験から、避難所の就寝時の環境や本当に必要な防災グッズについてなど、生徒たちはよりはっきりとした課題意識を持ち始めた。

〈シンポジウムでのステージ発表・アーカイブ展へのポスター展示〉

10月までの学習で多くのことを知って考えた生徒たちは、この学びを白馬村の皆さんにも広く伝えたいという願いを持った。そのような折りに長野県主催の「神城断層地震から10年シンポジウム~新たな活動を通じて、学び伝え続けていく~」に、ステージでの発表とポスターの展示という形で参加する機会を得た。

シンポジウム寸劇

アーカイブ展ポスター

発表時間としていただいた15分間と村役場に展示されるポスターで何を伝えるか、生徒たちの相談が始まった。最初は、災害時を体験するブース別ワークショップや避難所生活宿泊体験の内容を中心に発表しようという声が多かった。しかし、ある生徒の「今まで自分たちが体験したことだけでなく、そこから考えたことを、中学生からの提案として白馬村の皆さんに伝えたい」という言葉をきっかけに、生徒たちの方針が定まった。ステージでの発表は、寸劇や実物を取り入れた構成で、フィールドワークを中心とした生徒それぞれの学びから生まれた提案を行った。

ポスターも、学習の成果だけでなく、村民への提案を盛り込むことを意識して作成した。シンポジウムの後には、観客の方から多くの温かい言葉をいただき、生徒たちは「中学生である自分たちにも、白馬村の防災のためにできることがある、力になりたいから頼ってほしい」というメッセージが伝わったことが分かり、大きな手ごたえを感じていた。

4.最後に

様々な体験学習から問いを持ち、自分たちにできることを考え、地域に伝えようと主体的に取り組んだ2学年の生徒たちと、それを見守り支えてくださった地域や学生の方々によって、自助、共助のねらいに沿った防災学習を行うことができた。防災学習を続けたいという2学年の生徒や、その様子を見て興味を持った他学年の生徒が多くいること、そもそも防災に終わりはないことから、この学習を単年度で完結してはならないと考えている。今後も地域との連携を深め、多様に学び、たくさんの人とつながることを大切に、再現性のあるカリキュラムの確立と、生徒の興味、関心に沿った学習展開の両立を目指していきたい。また、防災の重要性を広く伝える活動を継続し、生徒たちの学んだことが、白馬村だけでなく、地域社会全体にとっての防災意識の向上、やがては人生を豊かにすることにつながることを期待したい。

 最後に、防災学習に関わってくださった信州大学教育学部防災教育研究センターをはじめ、日本赤十字社、長野県危機管理防災課、白馬村社会福祉協議会、白馬村役場、北アルプス広域消防本部、地域の皆様に厚く御礼申し上げます。